豊島ゆきこ「りんご療法」（2009年２月：砂子屋書房）
こめんと
第１歌集。花山多佳子跋。埼玉県川越市で祖父の代からの表具店を営む。日常の機微をふっくらと詠う。
付箋
ものかげに水引の花咲くやうな秋の一日も店を守れり
自動車みな消えし街路にゆるゆると山車のゆくとき江戸の気は満つ
玻璃一枚隔てて人の営みのすこし向かうに水仙の伸ぶ
ｆ分の一のゆらぎの風に似て兆す不安を彼女はうたふ
きららなす私立高校パンフレット読めばわたしが行きたくなりぬ
ポケットのある服やさしものもたぬ所在なき手が憩ふポケット
入試受くる若者の群れそのなかのわが少年よ顔挙げて行け
生まれ変はれるなら鴨になりたいと言へば夫は「亀がいい」といふ
