高安勇「阿吽」（2009年；ながらみ書房）
こめんと
第2歌集。上野久雄が亡くなってから「みぎわ」の代表になった。歌は勢いがあるがやや饒舌気味。あとがきにかかれた経歴から察するに攻めの人生を送ってきたのだろう。その生きてきたリズムが歌に率直に出ている。
付箋
奥行きは二間御茶ノ水駅際に電車で揺れる画材屋ＬＥＭＯＮ
洗濯機まわす手順を覚えたり少し溜まれば洗いたくなり
改札を通れば仄か足下にヒーター赤く冬の匂いす
部屋干しの洗濯ものは傘状のハンガーに乾くおもいおもいに
米兵を川に投げ込み意趣晴らす予科練帰りのその後知らず
近頃は留守居役なり十月尽丸大豆醤油つけて餅焼く
額這ういくすじの汗血管はむらむら膨れ収まらぬ怒気
狛犬の阿吽の吽に至らざる日々煩悩の口あけしまま
真夏日のハチ公前の映像をよく似た人の紅いパラソル
所在なく運ばれてゆくバス旅の点景すぐに淡くうすれる
「女房がこころ残りだ」手の中の湯呑のように独白残る
