黒住嘉輝
シジフォスの罰（1987）
- 秘めて来し私行のひとつ忽ちに不安は冬空の雲限りなし（悼坂田博義）
- 子の玩具えらぶひと時のわれに来て去り難くいる幼年のわれ
- 風吹くは励ましに似てさびしきを地にひそかなるもの芽ぐみ初む
- 昏れなずむ一樹高けれひそやかに樹の下道に匂い立つ闇
- 雪国の朝のなべてはけむりたち芽吹かぬ木々を透きて山見ゆ
確執（1993）
- 磨かれし玻璃戸の傷の夕光に深き歪みを見せて人行く
- 熟れ麦の穂渡る風に真向かいて汝が黒髪は長く吹かれき
- 及ばざりし一歩無限の隔たりを思えば冷たき汗はあふるる
- 津軽の海彼方ほのかに明るめばいま東へと傾く地平
- 父もまた母も若く住みにし街なりき現在は「異国」となりし大連
