江戸雪「空白」（2020年；砂子屋書房）
こめんと
第七歌集。しずかな怒りが底を流れている。理不尽への怒りは生きていくエネルギーにもなる。しかし、江戸さんの歌集は怒りのエネルギーは感じられても品が良い。これは持って生まれた才能と年月が醸し出しているものだろう。Oさんから借りました。いつもありがとう。
付箋
焼夷弾のようだと花火をいう父に窓がしずかに寄り添っている
ほのかなる穴を掘りませ言論の部品のような球根がある
不在なら不在のままに愛するだけすっからかんとドアを開けたり
山火事のようだ怒りは背中からひたりひたりと夜空をのぼる
ひたすらに風の冷たいきさらぎは赤いやかんを買ってそれから
守るとはやわらかな悪 藻川にはきのうとちがう水が流れて
大阪城外堀沿いに立っているシロバナタンポポ イクサハオヤメ
立つのみの姿をさらし杉は揺れふかいみどりの空洞が鳴る
書きし頃のことは話さず父の詩の象は去りゆく冬の夜空に
挿し花の茎はするどく水を欲る奪われし世界かなたに置いて
