日置俊次「ラヴェンダーの翳り」（2019年；書肆侃侃房）
こめんと
第８歌集。フランスに留学した日々の思い出が下敷きの歌も多い。
付箋
とほいとほい草原にわれは斑馬となりて探しぬ亡き母の風
「キユーピー」の「ユ」はデザインの問題でギユーツと黄なるチユーブ絞らむ
山手線のドアの上なるモニターに音無きニュース詠み続けたり
キャンパスの初等部につづく花の道駆け出だしたり半ズボンの子ら
このまへを茂吉は幾度通りしか向田邦子も手を合はせをり
あをびかる山椒魚のごときわが靴の頭撫でて朝を歩まむ
蒼すぎて傷つきやまぬ胸そこの深さよサファイアのかたき翳りよ
なぜ想ひ出すのか白のドレス着て笑むグレースのあの蒼き眼を
下水とは暗くつめたき道ならむ湯が来たるときその闇思ふ
買ひたての菊よりしづく散らしつつ見上ぐる曇天暗し彼岸は
ラヴェンダーのあをきかをりをたどるときわが胸に咲く荒れ地の日々が
地下にある石灰岩を掘り起こし積みあげにけりノートル・ダムも
傘ささぬパリジャンたちの真似をして髪まで濡らす 風邪をひきたり
このからだストレスにより防波堤がゼロであるらし菌は押し寄す
『津軽』にはこな雪わた雪みづ雪と太宰は七つの名を挙げてをり
かなたより返信ありていくたびもイラストのまる顔が涙す
遙かなるノートル・ダムよ身を抜けて魂は常におとなひやまず
