野一色容子「二月生まれの三月ウサギ」（2010年：現代短歌館）
こめんと
第２歌集。開放区 新歌集シリーズ。塔、50番地に所属していた。
付箋
ゆふやみに溶けゆくなだりつかのまを蛍光帯びて咲ける花あり
遠花火おそるるならむ啼きやまぬイヌをひたすらヒトはだきとむ
右利きのしぐさに蜜柑を剥く子猿ちらちらわれらを観察するか
悔しみを袖にて少女らぬぐひたり我のいつしか忘れししぐさ
気圧よりわづかに高き内圧に耐へつつ闇に炊飯すすむ
背信のごときかなしみわが娘らにこのさき盛夏の喪服を指示す
悔いなしと言ひつつ悔いぬひとかけの終の苺をあげざりしこと
小一の国語の本の余白ほどあかるくさびしき歌集を閉ざす
誕生の子もあたらしき父親も欠伸ばかりす朝日が射せり
B面の夏の或る日は風もなしひと日すべなく子を案じおり
