梶原さい子「あふむけ」（2009年；砂子屋書房）
こめんと
第２歌集。帯：永田和弘。第１章は三内丸山遺跡の舞台の脚本のような連作。意欲的。第２章から高校教員である作者の身めぐりの歌。後半、大病を患い、仰向けになって受け入れるしかなかったという。受け入れて歌う強さがある。引用は２章以降。
付箋
彼女らの生くる生計をわたくしは研修と呼ぶよき経験と
急須より湯はねぢれつつ注がれる誰にも小さき意地とふありて
若布には若布の花の花盛り月の光の届かぬあたり
ドリンクをスチュワーデスに頼むとき渋味を帯ぶる未成年なり
婆ちゃんに何を買はんかそればかり心配したり坊主頭は
緋袴の中にはジャージ 妹はフェンシング部の高校生なり
顕微鏡の中にゐたとふわたくしの異形細胞うすむらさきの
ただひとりで手術日までを決めたりきわたしの喉ではなかりし喉が
ひたすらに授業をこなす日々である白きチョークを強く握つて
翳り持つ、洞持つわれはやうやくに一本の樹として立ちにけり
乳色のカプセルひとつ飲み下すけふぽそぽそと梅の花咲き
