坂井修一「アメリカ」（2006年；角川書店）
こめんと
第6歌集。
付箋
さやといふ不可思議を生きて捨てられき小次郎のさや波間にあそぶ
理科系を奴隷となして戦後ありきいまもかはらず銀杏ちる日本
電車着く風のくるとき妻の手のさよならをわれは思ひだしたり
発言ボタンおさむと腕をのばすときエアー昇降の椅子はゆらめく
脳死ともおもへまひるのコンピュータその細胞の八割は生く
かははぎは顔ぺつたんこ釣れないとわが子うごかずつぶやくばかり
桜貝ひかりあつめてかがよはむ東シナ海おほなみのした
姿似てこころとほきを子とよべばかあんと音すダイヤモンドに
けふひとひ会議７つを司会せりいつよりか怒るときにほほゑむ
わがあたま水ふたわけに進むとき無限なりなにも思はぬあたま
茂吉翁家ダニを撃つ真剣を雨ふれば部屋にこもりておもふ
この週の二十の会議・五の学会うづまきやまず土曜のゆふべ
楷書体のみにすぎゆく一生か論文梗概書きつつおもふ
キーノートわが名よばるるこそばゆさ慣れざれどいまはすなほにうれし
かちまけのさなかに学も人もありもうひとつありそれにはふれず
定員削減１・25 この紙に小数点のあはれかがやく
文学部危機といへども先生はこの平日を学校に来ず
書きなぐるデタラメ国の王子様みぬふりにわれは笑ひこらふる
