江川美恵子「青い丘が待つ」（2017年；角川書店）
こめんと
第１歌集。解説・米川千嘉子。帯・馬場あき子。四十代で夫を亡くし、自身も大病をし、それまで書いていた詩が書けなくなった。しばらくして、短歌を始めた、と後書きにある。
付箋
一面の朝霧の中へ迷い入る過去のようなる今日という日へ
死の近き夫と知りつつ新しきパジャマを買いて父母は来たりき
十五年別の映画を観て来しか夫なきわれと父なき子とは
アクアリウムに子を連れ来たる昔なり抱き上げて魚に吾子を見せたり
聞いたことない「ありがとう」を父が言い「じゃあね」ひっそり病室を出る
われの出るテレビ放映居間を抜け父は見ていた寝室にひとり
自動ドア開く時よりも閉まる時冷たい外気は侵入したり
降る雨を玉ととどめて形よき彫刻少女の褐色の鼻
