千葉優作「あるはなく」（2022年；青磁社）
こめんと
帯に第＊歌集と入れていないのは本人の拘りか。たぶん第1歌集のような気がするが。栞・江戸雪、大塚亜希、大森千里。北海道紋別郡在住の作者。繊細な若い人の歌というトーンで一冊押している。第1歌集だとしたら歌数は少なめだが、トーンを考えればこのくらいが良いのかも知れない。三十代と後書きにあるが、かげりのようなものもある。扉に和歌が配されていて、作者の拘りが感じられる。
付箋
「用意」から「ドン！」のあひだの永遠を生まれなかつたいのちがはしる
手羽先をひとりでほぐす夜である絶望的に空がとほいよ
たんぽぽのやうに暮らしちやだめですか三万人が自死する国で
「こひびと」と仮名にて書けばはつなつの風のやうなることばと思ふ
星型の穴を通つて来たことも忘れて溶けてゐるマヨネーズ
あをぞらの深みへ落ちてかへらざる鳥のこゑのみゆふぞらに降る
ゴミ箱に入らなかったちり紙が星座のやうに落ちてゐる床
深呼吸するとき澄んでゆく脳にことばが魚のごとくひかるよ
