田中雅子「青いコスモス」（2014年；青磁社）
こめんと
第2歌集で遺歌集。真中朋久、前田康子編。帯・永田和宏。2011年50歳で病没した作者の歌をまとめたもの。
付箋
まっさらの芯もつお湯が深爪をしたる爪先よりしみわたる
歯磨きのにおいの息でやわらかき雨降る町を歩かされている
ほんとうの恋をしたから夏蒲団陽に当てるだけの日常でいい
ききわけて育つ幼な子わが裡に棲みつきてただ名前がない
キーホルダーにつながれし鈴は母の音暮らしの中で幾たびも聞く
冷蔵庫の唸る夜更けに相聞を書き散らす小さき再生紙なり
折鶴をそっと置きたる卓の上はなやかならぬ静けさ保つ
生きること疎めば励ます母が居て姉が居て椅子のあたたかさかな
父ならば出遭う不幸に耐えていた書斎に太き万年筆置きて
筆圧を等分にして書かれたる君の手紙は白を深めつ
裕子先生の中にコスモスそよぎいるかなしいほどに青いコスモス
耳元で笑い給える先生のまざまざと感触ふっと消えゆく
