橋本恵美「Bollard」（2022年；青磁社）
こめんと
第2歌集。帯・永田和宏。「どこまでも羽ばたこうとする想像の翼を日常の懐かしい手ざわりがゆったりと押しとどめ、橋本恵美の世界は、さびしくもほの明るい」とある。山口県出身大阪府在住。
付箋
たい焼きにも養殖、天然あるらしくずっしり重き鯛焼きを買う
調査員の手元カチカチ鳴る真昼「じてんしゃ１」のわれも通れり
胸の裡に青い金魚が棲みついて振り返るとき父と思えり
月の夜に漕ぎ出すごとし夫とふたり義母に内緒の外出をする
ちいさな亀に大きな影のあることもふいに哀しき冬の入口
海老を剥く、えんどうを剥く黙々と厨に夕日を浴びながら剥く
新幹線停車のたびにふるさとの訛り薄まり東へ向きぬ
急ぎなさいと叫ぶ駅長いまは無く最終列車がすっと出て行く
土曜の午后がいちばん寂しい いつもより三回多く塔を見上げる
薬園に夫はさみしい巨人なり雨の無い日は雨を降らせて
万緑に包まれ健やかなる昼餉召しませ誰かを看取りし日にも
