池田行謙「たどり着けない地平線」（2016年；青磁社）
こめんと
第一歌集。栞・佐藤弓生・吉村実紀恵・大森静佳。1973年生まれと奥付にある。もうそんなになったかな、という気がした。かなり長い期間の歌が収められているような気がする。果樹の栽培試験の仕事をしているらしい。前半の恋の歌もよいが後半の小笠原での生活の歌がよかった。
付箋
地球儀を逆さまにして回すとき陸は海からほどけはじめる
試験区を設定されないまま今日も林檎の花弁は次々落ちる
旧姓で呼べばあなたは旧姓の顔をしてここはまだ汽水域
短冊のない竹藪を歩くとき足音はフェルマータのようだ
テイスティンググラス一脚君が持つ唯一の酒器であるか今でも
少しずつ島民になる固有種の俗称を覚えてゆきながら
照度計一台持って吾一人モクマオウ林の林床に立つ
雲低く流れ去りゆく海原の千キロ先に本州がある
トビウオを空中で捕食する鳥の背の灰色が朝日を受く
また次の入港日まで食べられない今夜も牡蠣を買いそびれてしまい
虹に触れし風は私に触れながら椰子に触れ南洋に去りゆく
