片岡絢「ひかりの拍手」（2009年；柊書房）
こめんと
第1歌集。帯・高野公彦。一読、健康な若い女性らしさがいい感じで出ていると思った。
付箋
大気層はぶ厚き曇りガラスといふ 曇りガラスの中で恋する
飛び立つと決めて真白き階段を上がれば海よりひかりの拍手
しづかなる雑木林に入りゆけば光はふいに和音に変はる
ゆふぐれの赤信号に足を止め燃えたつやうに我ひとりきり
同僚の胸中すこし見えすぎて疲れて歩く、歩く、家まで
またわけのわからぬ歌を口ずさみ父は激辛カレーを作る
帰り来て愚痴の止まらぬ我が前に母は置きたり天ぷらうどん
まだ寝てるみたいに眠い電車降りエスカレーターでもまだ眠る
やだやだと言ひて職場に来てみればやだやだ虫が机にゐたり
コーヒーに生グリームを垂らしつつ白が汚れてゆくさまを見る
わたくしは父を見つめる葬式のあひだ棺を見つめる父を
読み進む『地球の歩き方／トルコ』〈親日〉といふ語が気にかかる
逃げ場所はある 仕事場の隅にある給湯室で君を想ひぬ
