向山文昭「ディーゼルの列車」（2019年；青磁社）
こめんと
第2歌集。帯・花山多佳子。帯に一首一首が寡黙で、簡明な詩、とある。
付箋
北寄りの神社森から差す夕日きのうは夏至と気付かざりけり
同じ景三回見せてゆっくりとスイッチバックの駅を発ちゆく
川すじで蛙の種類が違うらし山すその方がやわらかく鳴く
行き交いし夏のメールのフォルダーを消せば終えたる全国大会
死後十日のちの満開 桜木の下にありたる犬小屋の場所
外国を旅するほどに最少の会話で終えるわが一人旅
信濃へと移されし道造の記念室小さき家の設計図あり
畑まで玉蜀黍を取りに行くペダルを漕がぬわずかな下り
八月の北沢峠の両側にアサギマダラの乱舞が続く
どの田にも動脈・静脈あることを思いつつ行く冬の野道を
駅員のいない駅増えホームにてコスモスの花見なくなりたり
