水谷文子「どなた」（2019年；角川書店）
こめんと
第3歌集。2011年から2019年春までの作品。母の死と孫の成長。そして夫婦の旅など盛りだくさんな歌集。その中心は亡くなった母の姿であろう。
付箋
わが母に＜どなた＞と問はれふるさとにことば失ふわたしは＜どなた＞
ふるさとにまれびとわれは役立たず介護する姉の用を増やして
佐渡のはる体育館に師の白き足袋答礼の＜松風＞を舞ふ
良いことば使ひませうと教室に首から提げた方言ふだを
ショートステイにもはや適はず病む母は入院すとふ町を離れて
手を休め電話しようと思ふとき荒野のやうだ母の亡き日々
腹に響くにつぽんのこゑ「寝音曲」白梅にほふ狂言の会
六十八歳になりしはな子よ皺ふかき象皮に冬の陽は喰ひ込んで
校庭にラインあたらし先頭を鼓笛隊くるわが少女来る
姉のため祖父の植ゑたる青桐は箪笥とならず裏庭に伸ぶ
正客の息子夫婦に茶を点てる夫の袱紗のむらさきぞ濃し
