ダンバー悦子「ふた束の水仙」（2018年；青磁社）
こめんと
第1歌集。作者はニューヨーク在住。
付箋
あの夏のグラジオラスの花の色思い出せない母といた夏
緊張を背負い手また日が始まりぬ警戒レベル未だ高ければ
夫の書く偏と旁の離れてる漢字互いに磁力を持てり
ある日ふと傍に立つ娘いて背丈追い抜く影の長かり
この我をいい人と思う姑がいる繋ぎゆく手を離さず歩く
米国のために戦えるかと問う市民権取得の申請用紙は
異邦人ばかりの街に帰りきて緑茶をマグで飲む朝がくる
小さき手をいっぱいに広げふた束の水仙吾子の持ち帰りし春
兵士また配置されおり夏の駅真夏日になると予報は言えり
ひとり乗れば二人降りゆく昼のバス闇が確かに生まれる気配
最後まで母は母のままでいた本棚に残る聖書のように
過去にしか共通点の無くなりて貴方のいない朝餉食みゆく
守られているんだなあと思う夜祖父母に父母にたぶん夫に
