梅内美華子「エクウス」（2011年９月；角川書店）
こめんと
「ゆたかなしらべとのびやかな身体感覚にあふれた待望の第5歌集」と帯にある。さほど熱心な読者ではなかったけれど、やはり年齢相応の翳りとか落ち着きというものも感じられる。でも第一歌集の頃からの端正な美しさと迫力は健在。
付箋
雨の字の四つの点を顔に描きわたくしも雨 渋谷の谷に
青空に屋根かがやかせはらわたのやうな暗闇を家々いだく
白百合のかしぎつつ咲く山の裏に深き傷負ふ恩納岳あり
恐れなくなつた分だけ薄くなるメドツが出ると言はれし藪も
持ちこみしスープをそつと飲ませたり父に運べるものは小さき
ポケットにミニ新幹線を入れる子が世を見渡しぬ王者のごとく
神棚と仏壇に水を供へたり帰郷してまづ父のすること
わが生に伴走をするエクウスの夕べ車窓に赤き身を寄す
地ビールは濁りのなかになつかしくかつ知らない人の味がするなり
