宮地しもん「ｆ字孔」（2014年；ふらんす堂）
こめんと
第1歌集。解説・花山多佳子。
付箋
東北の雪はちがうと東京に雪が舞うたび子らに語りき
過ぎてゆく秋とぞ思うグローブにずしんと痛い子の直球も
自室よりぬっと出てくるたびに子はどういうわけか背が伸びており
うんうんと首ふりつづくる単純もときによからむ会津の赤べこ
ｆ字孔のぞけば暗き空間よ 空のつくものなべて大切
転ばぬよう踏み出す位置を定めたりふるさとの冬を歩くかたちで
風信子しろき根っこを伸ばしつつ流しの下で春を待ちおり
ゴミ捨て場に置かれし一本の硝子瓶そのからっぽに光そそがる
なにひとつ祝祭らしきもせぬままに末の息子も二十歳となりぬ
四年目の翁草なり東京の草にまじりてこの夏を越す
幼稚園の隣の小さな聖堂の扉押したりまだ寒き春
