丸地卓也「フイルム」（2024年；角川書店）
こめんと
第1歌集。栞・坂井修一、北山あさひ、寺井龍哉。1988年生まれ。病院で医療ソーシャルワーカーとして働いている。職場詠というわけでは無いが、その人の職業はその人のものの見方に少なからず影響していると思う。
付箋
永遠に上りつづける階段のだまし絵のなかの勤め人たち
バルコニー席から舞台を覗くとき狙撃手のような視点と思う
手のひらに蟻を歩かせ生命線途切れるあたりで吹き飛ばしたり
人間が城壁に化ける絵画ありエッシャーの憂いいまだ拭えず
袋からつきだす長ネギぶらぶらと君と歩いて暮らしに戻る
古本の匂いで腹痛もよおした胃のなかで踊る漱石鴎外
遊水池時計回りに老人と鴨がすすんで時間をきざむ
外来の待合室の水槽に金魚がにんげん眺めておりぬ
名を抜かれ症例になる患者おり故郷の海はわれしか知らず
鞄、ペン黒きもの身にまといおり男らしさをまだ信じいる
足腰に利益があるという神社母のねがいがおおかたわかる
ホスピスに移る前の死キャンセルの電話をいれてカルテを閉じる
おむつからおむつに終わる人生よボクサーパンツが風に揺れてる
遮断機の音はやまない数秒が過ぎても七回忌が過ぎようとも
