米川千嘉子「吹雪の水族館」（2015年；角川書店）
こめんと
第8歌集。
付箋
クマネズミ北千住駅に飛びだして時間稼ぎのひとの世に遭ふ
渋谷駅「明日の神話」の絵の下を選り分けられむとゆく人の群れ
ある日より駅を使はずある日より庭に出ず さまざまなある日まで
おかつぱで昭和に育ちおかつぱで平成にすこし老いはじめたり
一人へ返事書き終へ一人のさびしい感情より逃ぐるかな
小さいからだ文字みしみしと書きにけむ綿入れを着て書く背ぞ砦
子にはもうしてやれることなくなりて足湯に秋の陽をひらめかす
ほつそりと開いたままの抽斗を沁みだしてくる秋の憂鬱
今朝咲きしばかりの藤はほつそりと光りつつ垂れどこからが雨
葉桜の町の新人 絵描きにも虫博士にもならざりし子も
息子の電話短く切れて明るかりそののち幼き息子と話す
