冬道麻子「リラの風」（1993年；ながらみ書房）
こめんと
透明な世界を歌う。筋ジストロフィー罹病の日々の中で心は透明で自在。
付箋
「生まれてすみません」たぶん太宰より長き歳月おもいつづける
七つもの子がある鴉の死ぬことのできぬ翼のだいじが渡る
ひととおり余病をクリアしあとはただ秋の麒麟の首ほど高し
春うらら地震の咄嗟にわれなどを庇わんと抱く義姉におどろく
まどろみの破れそうなるまなうらにリラの風吹くうすむらさきの
体調をめざめのわれにたずぬれば韃靼海峡ゆく蝶の翅
＊
青深くぬりわけられてマリアナの海ありアメリカ大陸の裏
隕石の衝突説を病室の白き空間に呟きあえり
太陽になりそこねたる木星はそのかみ静かにまなこ閉じしや
太陽系地球のかなた海・冥の列を乱して冥・海まわる
ボイジャーは放蕩息子よいま何処にいるとも風のたよりさえ無く
そのかみの地球に酸素をはきそめしストロマトライトに覚ゆる愛憎
月は月で大変である地球から地震のようなるエコーうけつつ
