冬道麻子「五官の束」（2003年10月：青磁社）
こめんと
地味だけれどすっと読んで心に沁みる歌。これらの歌が筋ジストロフィーで長らく 床に付いている人に書かれたものだと知って健気さに驚き、言いようのない短歌の 力を感じた。朝日新聞の折々の歌でも紹介された。
付箋
夜の窓をはさみてわれと桜木は雷光のたびおどろきあいぬ
看護婦の手荒れに気づく励まされ握られているときの感触
二羽三羽いな十羽ほど枝移り音符のごとく四十雀過ぐ
二十回数えて電話のベルが止む何処かで誰かが諦めて今
天使（エンジェル）の吐息のような雪の上にわが足跡をゆめにおきゆく
木蓮の切株おもわぬささやかさ兎一羽が坐れるほどの
手鏡は軽きものほど小さくて翳せば冬の庭の破片よ
ゆうがおの莟ゆるゆるほぐれつつ左回りにひらくたまゆら
ちからなき莟もありぬ手を貸せばほぐれて咲きて夕顔となる
