真中朋久「重力」（2009年；青磁社）
こめんと
真中さんの歌の良さがじわっと染み出るような歌集。個人的には子供、雨、鉄道を詠ったものが好き。
付箋
重力にさからひて歩むひとかげの尾根の向かうにやがて消えたり
傘二本提げて迎へに来てみればソフトクリームなどを食ひをり
あるかなきかのしぐれの雨を頬にうけて暗渠のうへの道をたどりぬ
異界から戻りたるものかざんぶりと濡れ髪に風呂の蓋押し上げる
「塔」のうたにされちまふぞといふこゑは襖のむかう なにをしてゐるか
架線ひくき橋下をぬけてゆるゆるとパンタグラフがのびあがりたり
人格に言ひ及ぶことのさびしさと読みて便箋は七枚を越ゆ
雪割灯ともして朝のポイントのすみやかに列車を通過せしめたり
踏切を数える子らの背にたちて見てをり運転士の指差確認
扉をと言はれうしろ手に閉めて入る窓のひかりのまぶしきところ
もうゐないひとのロッカー開けてみればまつしろいビニール傘二本
対岸のビルを見上げてゐるままに太く短き橋を渡りつ
板書うつす息子のノートのなにゆゑか隣席の少女の文字がまじる
