大森千里「光るグリッド」（2020年；青磁社）
こめんと
第１歌集。解説・松村正直。塔短歌会賞受賞作「釦をさがす」をふくむ。この「釦をさがす」の一連は歌集中でも目立って良い。
付箋
つま先からざわめくような夏が来て入道雲があんなに高い
こんなにも馬のからだは熱いのか 撫でようもなくはっと手を引く
食べるにも体力がいるひとたちに軟飯、お粥、重湯をつくる
この春が最後かも知れぬひとのためお膳につける蕗の薹ふたつ
夜遅く洗濯物を取りにきて五分もたたずに帰る家族は
何となく入れたくなったと言い添えて夫がはじめて買うバスクリン
悲しみは怒りとなって膨らんで埋めようとするドーナツの穴
夕焼けのガランス色が足りなくて空をちぎって貼るしかないな
ためらわず生八ツ橋はふたつ取り三十五キロの壁を超えたり
中敷きを抜いてぱぱんと叩くとき土間にひろがる風の匂いは
白布をしずかに顔に掛けるときいつもためらうわたしの指は
