大森静佳「ヘクタール」（2022年；文藝春秋社）
こめんと
第3歌集。Oさんのおすすめ。ここでは上げていないが主題制作の章も良かった。「自分の歌によって自分自身が傷つくことが増えてきた」と後書きにあるが、歌の感じは第1歌集の頃からの美しい表現で覆われているけれどもくぐもるような激しさ、、が感じられる。その暗がりでのたうち回るような激しさに自分自身が立ち向かわなければならなくなって、さて次はどう流れていくのだろうか。
付箋
鳥影はするどく空を斬りわたり結末が見えているからって何だ
正面の、右の、左の顔があり左がもっとも火をふくむ顔
さびしさの単位はいまもヘクタール葱あおあおと風に吹かれて
ベランダに風の支柱として立てば目鼻はうすく削がれてゆきぬ
読み終えて黒い表紙にあてる手のてのひらは読む夜のつづきを
男でも女でもなくまぼろしの子どもを滝と名づけて遠い
輪郭をこわして鳥は飛び立てりわが二十代終わりの冬を
マスキングテープは走馬灯に似て冬の曇天へわれを導く
しらかみを手に裂いてゆく快感の終わりに昼の月がでている
