林和子「ヒアシンスハウス」（2020年；六花書林）
こめんと
晶所属の作者の第３歌集。埼玉県の別所沼のほとりに立原道造の設計したヒアシンスハウスが、後世の建築家の手によって再現されている。作者はそこの守り人の一人。昔訪ねたときに、お掃除をしていた人が居たが、その人たちのお一人らしい。感謝である。記念館もマンション用地に売られ、信濃文学館の展示も撤去され、立原道造ファンとしてはヒアシンスハウスに是非とも頑張っていただきたい。作者の歌人としての出発は岡部桂一郎に師事したことから始まるらしい。何となくその雰囲気を漂わせる作風。もう一つ、広島で育った（昭和15年生まれ）ことが作者の歌のテーマにある。
付箋
道造のベッドの端に少しだけ掛けてよいかと振り向く少年
ヒアシンスハウスの旗のひるがえる空あり冬の沼をうつして
まぼろしのようなる約束愉しければ雲ほころびて光こぼせり
夜の更けて「いってきマンモス」子のメール、「きをつけてんし」と返し灯を消す
ヒアシンス一鉢買いて窓に置く何もしたくない二月一日
色鮮やかな柚子の実ふたつポケットにしのばせ上る暗闇坂を
ともかくも四人が揃う花のした一本のビール分け合いて呑む
振り返る夕日に染まる大鳥居 蟻のようなる人影うごく
父母が平和を願いわたくしに和子と名付けし初夏の日ありき
ひとしきり風花の舞い薄日さす油屋旅館閉ざされており
いつかわれは秋津となって飛ぶだろうサッカー場を川のほとりを
