長澤ちづ「時の舳先」（2024年；角川書店）
こめんと
第7歌集。普段着の歌集と後書きにある。引き継いだ結社誌「氷原」を終刊し、新結社「ぷりずむ」を立ち上げた2013年からコロナ禍が始まる頃までの作品とある。
付箋
帽飛ばし私の何を差し出せと風はいうのか追いかけて来て
間欠泉のように歯痛がおそいくる遠近の不安引きつれながら
魔除けとう石敢当立つ石畳その坂道を足とられ行く
投身の数多の飛翔打ち消して沈黙しおり断崖の波
キジムナーに遭わんと今も夕暮を待つ子ら居るやガジュマルの下
「かんたんに死ねないものよ人間は」幾歳の頃の母の言葉か
千羽鶴一羽足りぬと夢に来てうったえる母しかとあゆみて
角砂糖紅茶に角を崩しゆき抱える悔いは母に重なる
関心は尾の有無にして三歳児ふさふさ尾の犬追いかけまわす
あたらしき時の舳先に立つ踵いかなる星をめざしゆくのか
