久永草太「命の部首」（2024年；本阿弥書店）
こめんと
第1歌集。帯と跋・伊藤一彦、栞・吉川宏志、石井大成、俵万智。宮崎県の若き獣医師。高校時代は短歌甲子園で活躍した。Mさんから借りた。装幀・花山周子。
付箋
呼び捨てにされてあなたをはたと見るここか私の分水嶺は
そりゃそうさ口が命の部首だから食べてゆく他ないんだ今日も
手の甲に青ペンの染み忘れたくなかったなにかの瘢痕にして
治す牛は北に、解剖する牛は南に繋がれている中庭
採算と命の値段のくらき溝 鶏の治療はついぞ習わず
保育士の「おやすみなさい」に潜みたる命令形の影濃かりけり
草太の風邪うつしてもらってそれでもう死にたいと言う寝顔が憎い
優しさの嘘閉じ込めてにんにくが食われずたまっていた冷蔵庫
親指でデコポンむりっと割るような力加減のはじめましてを
風と風邪きっと語源は同じだろう海風邪ひいてやりたき渚
ロゼットは春待つかたち床じゅうに教科書ひらくその野に眠る
エコーゼリー塗ったくられて我が腹に来世うなぎの予感まとわる
AIがAIをプログラミングしたらそいつは繁殖なのか
見ればもうビールの泡が消えている慰めるってどうしたらいい
