大口玲子「ひたかみ」（2005年：雁書館）
こめんと
作者はすべてに対して四つ相撲をとり寄りきりしか決まり手がないかのように立ち向かっていく。その迫力とまっすぐさが作品の魅力なのだが、それは楽に生きることができない作者を傷つける。それなのに傷ついていることすらまっすぐに歌う。作者ご本人にお会いして余計に親しみが湧いたがゆえにある種の痛々しさを感じた。
付箋
花束をもらふなら青 初夏の花舗にあふるる光の束を
深くすれ違ひしは君か濃紺の傘さし夢に名乗り合はずき
貞心尼の一首こころに挿してゆく 路面電車の線路またいで
大股で歩きたくなる 雨後の森にたつたひとりの人間なれば
ふるさとをもう忘れたし死者の名はいちにんいちにん読み上げられて
労働をせぬ一日の生ビールおはもじながら二杯目を飲む
一日を降りやまざれば散薬のやうにもにがく清潔な雪
海図にはなき危険区域泳ぎゐしマグロがはこびたる放射能
子犬拾ひ帰りたる夫こはごはと飼つてもいいかとわれに問ひたり
そのかみのひたかみをきたかみに変へて歳月は雪をまとひてしづか
海見ゆる側の座席を選べどもつねに目閉ぢてやりすごす海
