上澄 眠「苺の心臓」（2019年；青磁社）
こめんと
第1歌集。跋・真中朋久。感覚的な歌の表現に工夫がちりばめられていて面白い。ただ、作者が一冊の物語として歌集を作らなかったこともあって、全体的に淡い感じがある。
付箋
少しずつ無理をしている人たちの傘の模様がそれぞれ濡れる
音だけがもう春の雨パジャマからいったんぜんぶぬいできがえる
この世からなくなればいいわたくしの駆け込み乗車をするときの顔
あまのはらふりさけみれば十代はみんななくしているばかりなり
決定的に春は来にけり線路ぎわのみどりの色があかるくなって
雨の朝の駅のにおいだ 震災のあとの日本をつつんでいるもの
原始的な機械のように少女らはときどきカシャカシャカシャカシャ笑う
はらまきをパジャマの上にしたままでこどもが朝のゴミ捨てにくる
プラットホームを低く飛ぶ白い蝶秋はかすかな鉄の匂いと
ながめているうちにねむけがやってくる笹蒲鉾によく似た木目
ちゃんと歩いてここまで来たってわかるから靴は汚れているほうがいい
無力だとかんじるときは手をつなぐ 無力がふたりにふえる気がする
給湯器またしゃべってる お湯張りの温度を一度上げ冬にする
その先に青空がある屋上に続く階段いちばん暗い
