山名聡美『いちじくの木』（2021年；砂子屋書房）
こめんと
第1歌集。落ち着いた物腰の歌。押しつけがましくなく地味だがきらりと光る。跋も解説も無いのが少し残念。
付箋
登り窯の底にゆりかご椅子があり読みきかせする声にかたむく
友達はふしぎな人で夕暮れの駅のホームのベンチに似てた
三日間行方知れずのわが櫛は『永井陽子全歌集』にはさまりおりぬ
悪口も給料のうちつややかにキャリアデザイン講師は言えり
電話線ひかりケーブルなぞの線ときどきぷらりと垂れているなり
吊り橋のような廊下を渡りきり振りかえらずに今日の日を閉ず
休職の人の机のひきだしをあけてときどき消しごむ借りる
セーターをたんすの奥からひきだせば去年の冬の手ざわりがする
シチリアの飾りパンまつりにいつか行くそれだけ決めて今日ははたらく
「飲み会ってなあに」ときいた七歳に「しごとだよ」と弟がいう
負けそうな朝にはえらぶハイヒール ヒールはときに乗り物になる
