王生令子「夕暮れの瞼」（2021年；青磁社）
こめんと
第1歌集 解説・三井修、帯・永田和宏
付箋
子を背負い子を抱き子の手を引っ張って塊となりバスに乗り込む
苛められ心底憎んだ人の死にその人型に穴あく心
捨てたほうの人生の続き思いつつ大きな鰺を背開きにする
クロールで息継ぎするときふと見えるあちらの世界に行ってはならぬ
はねあがる油にどどっと玉ネギを投入しており ああ、腹が立つ
ぼろぼろと父の口から落ちるご飯きちんきちんと生きてきたのに
自分から溢れた水に溺れてる母を上手に憎めなくって
構内の挨拶のひとつ「ご安全に」なんとも奇妙な日本語である
夕暮れの瞼の中で開かれる亡き人だけの朗読会あり
