前田康子「色水」（2006年；青磁社）
こめんと
何かが吹っ切れた感じで、独自の世界を築いている。小さな生き物や植物に 寄せる眼差しは繊細でやさしいが、芯の通った強さが感じられた。
付箋
「あなたは」というとき 折りたたまれた君を広げるように言う
田植えせし男の足跡丸くありそこに泳げる蝌蚪を掬えり
ぴょんぴょんと私が跳べば二人子は真似して跳べりどんな場所でも
つゆくさの青が冷たく燃えている 引き寄せられて野の底に立つ
（子の友の母親亡くなりて）
満点の答案用紙仏前に供えられたり果物の香は満ちて
背中にも胸にも二人子しがみつき春の布団に息は匂える
じゅずだまに針刺してゆく秋の夜に子はだんだんと寄り目している
防犯ベル握り締めて下校する一年生となりてこの子は
まだ性差淡き学年 女子（あいつら）に蹴られたなどと子が帰り来る
雨粒を吸い寄せているビニールの傘の内側息はたまりぬ
冷やご飯昼に食べれば雨の味 降りて止まざる外を閉ざして
