小川佳世子「ジューンベリー」（2020年；砂子屋書房）
こめんと
第3歌集。栞・松村由利子、染野太朗、田中槐。Oさんからお借りした本。次々に病気の症状が現れている作者。1960年生まれと言う。親の介護のために一緒に老人ホームに移り住む。仕事もする。歌に使われる関西ことばも効いている。大変なことはなんで重なるのだろう。ただ歌はあくまでも前向きである。
付箋
どんぶりの底泳ぎたる冷やしうどんつかまえ夏のお昼をおえる
あと何日ともにいられるわが胃かとみぞおちさするがこたえはこない
雨だから明るい声が出ないのでお礼の電話は明日にのばす
外国でフルート奏者になってゆく姪はしっかり地面をふんで
なつかしいと思ってしまった病室の固いベッドとうすいカーテン
粛々と検査を受けてわたくしはこれからどこへゆくのだろうか
歩けたらあれもしようとおもうけどおそらくきっとやらないだろう
洋服はおおかた捨ててしまうだろう 老人ホームに収納がない
刻印を押すかのごとく病歴を次年の手帳に書き写したり
青空にジューンベリーの花の白 今までのすべて号泣したい
おたがいにいろいろあった後だからのんびりしよな老人ホームで
早朝はどすんと鳴って救急車母を連れ去りするりとひとり
退院の前日の今日は晴天でさしこむようにさびしい真昼
