坂井修一「縄文の森、弥生の花」（2013年；角川書店）
こめんと
第８歌集。ご多忙なのだろうと歌集から伝わってくる。息子の巣立ちを歌った歌も心に残った。
付箋
しろがねのほそき雨降る 喜之床の二階の窓に、下ゆくわれに
博物館倉庫にねむるコンピューター わが成しし日は夢よりとほし
あしびの木白満開の庭の奥しづかにわれを見る妻がゐる
神保町背中しづかなうたびとの若きがふたり濡れて去りゆく
妻と子は似てゐてふたりわれを見るこの恬淡はどこからなのだ
三千の新入生よカラマアゾフ読みしことなき二千九百
日比谷線広尾・六本木 ひらひらと増えてゐるなり赤ときんいろ
こゑに泣くコンピューターをつくりたし十九歳のわたしのやうに
雲を背に子と坂道をくだるとき栗落つる音ひとつたち消ゆる
誰に似し「一番センター坂井君」サヨナラ二塁打われは瞠りぬ
子にとどく合格通知はるばると片道切符の匂ひたつなり
風のやうな息子 嵐のやうなわれ 吹かれ吹かれて妻は遊ぶも
ぎしぎしと苦しむ声か雨傘に雨触るる音ひくくつづけり
なにもせず暮るるひとひやどんぐりを独楽とまはせり明日は食ひなむ
泣くほどに電車の揺るるおもしろさ冬がまるごと立ち上がりゆく
ブルーシートの中のうすやみ 道造の記念館たりし洞まだある
