高安 勇「海馬の眠り」（2020年；砂子屋書房）
こめんと
第3歌集。12年間のいろいろなことを書き綴った歌集。上野久雄氏から引き継いだ短歌結社「みぎわ」を河野小百合氏に引き継ぎ、経営してきた会社をたたみ、自宅を引き払いマンションで夫婦二人の暮らしを始め、、、と着々と老い仕度を進めてきた。これからはしがらみから離れて存分に御健詠ください。
付箋
何気なく横柄になる物腰に人遠ざかる老い人わびし
ちらちらと雪舞い消える結晶のはかなさに似る海馬の眠り
二十年使うことなくケイタイに記憶残せし人の名を消す
閉店の柏そごうの最上階回転カフェ暗く動かず
昇るより降り難し階段は膝を庇いてひと電車待つ
マンションの掲示板には繰り返し「してはいけない」事が貼られる
ひたむきに幼な子のよう頼りなくいもうとの手が熱くからまる
仲見世の外国人はかき消され線香は濃く境内に散る
「約束をしましたよね」と妻は言い約束事の軽さを思う
八月に励ます文を寄せくれし冨士田元彦年の瀬に逝く
粛粛と兵士ら任務果たしつつ整然と去る期限来たれば
よるべなく共同墓地に納めらる上野久雄の終の住処は
