橋本成子「声はかるがる」（2013年；青磁社）
こめんと
第1歌集。跋・池本一郎。 徳島県在住。公立幼稚園の管理職を退職して、車を駆使し、フットワーク軽く、繊細ながら活動的な歌が並ぶ。その中で、特に父を詠った家族詠に特徴がある。
付箋
百千のげんまんしても悪戯のやまぬこの児の頬やわらかし
お社も和菓子の店も飲みこんで四車線道つるりと伸びる
代休に出歩きおれば気の咎め行くさきざきでことわりを言う
秋雨に傘を寄せ合う立ち話わたし鬱かもしれないなどと
キルティングされたるように空、山がこじんまりあるトンネル出口
チューリップの芽を数え合う夫と母声はかるがる二階へと来る
面倒くさいと口にするのは幾つから子らは汀を走りてやまず
包丁を突き立てたまま思案する冬のカボチャはほんに手強い
吾妻橋二丁目の路地に振り返るまだ頭のあらぬスカイツリーを
アメンボの重さにへこむ水の影引き伸ばされて水底を行く
亡き父が目打ちと呼びいし錐をもて日本暦に吊り紐とおす
