田中濯「氷」（2014年：角川書店）
こめんと
第2歌集。盛岡で暮らした6年間の作品。繊細さと鋭さがよく出ている。2011年の東日本大震災を受けて「巨大な断絶を体感した」と後書きにある。
付箋
読まぬまま放りし「塔」がつやつやと光りを放つ薄暮になれば
ハンカチが昨日と同じままだった 結句のちから午前には足らず
夕暮れの石の鳥居の影伸びて疲れし馬がすこしいななく
義経が北に行きたる跡を見つくぬぎの枝は凍りはじめて
研究が五年残らぬ時代なり緑茶を淹れる間にも古びて
ぽつねんと一軒残す抵抗も銭の足らざる此の世のいきさつ
青森のりんごは来たる青森のりんごが来たるなによりはやく
映像が建屋を示すそのはしに草はえており意外に生えて
失敗をすれば叱られると刷り込まれし学生さんにメモを残しぬ
来たときと離れるときに二度泣くと伝えられたる岩手山、春
