早川志織「クルミの中」（2004年；出版社）
こめんと
第２歌集。二人の子供を出産し子育ての日々が綴られている。あとがきによれば 自分の町から外へ出ることなく生活している狭いけれど豊かな日常への今の作者の 思いと愛着を込めたと言う。
付箋
展望台のガラスに頬をおしあてて見ており息に湿る横浜
サングラスかけてわたしはくきやかな雲と翳との遊びを覗く
指の記憶を指はしずかに動かしてあやとりの赤い橋組み立てる
医術だから目をつむり針を受け入れる人工授精は十秒で終わる
何も言わずわが少年が凝視する工事場のユンボのむきだしの力
地下駅にかすかな土の湿りする風を流して地下鉄は来る
この街に一人一人と沸くように地下鉄出口から人が出てくる
近頃の乳房は赤子に媚びていて柔和な毬になりゆくごとし
子を遊ばせ戻りてきたる家内の留守電に父の死の報はあり
