中林祥枝「草に追はれて」（2021年；現代短歌社）
こめんと
第1歌集 跋＆帯・松村正直。おおらかにたくましく生きている感じが爽やか。様々な出来事をユーモアで乗り越えている。
付箋
ブナにはブナのかなしみあらむ夕つかた一羽の鳥のとびたちゆきぬ
（ブナは漢字。表記できないのでカタカナに置き換えた）
収穫後に二トンの堆肥を入れをへて彼岸花なづる風ここちよし
持ち込みし綿を量りて一貫と一六〇匁と綿屋がいひぬ
わが摘みし綿で娘の児の為の蒲団つくらむ予定日近し
気負はずに子育てすると言ふ娘 退院せし児に乳をふくます
手を出せば手をつなぎくる幼子のちひさい手袋しめり気帯びて
まつすぐに目を見て話す医師なればとつてしまはう胸の腫瘍は
よき芽ひとつ残す作業を一日せり優劣つけるは苦しきことに
己が身より大き青虫つかまへて乗つかるやうに蜂が飛びゆく
年玉は症状頂くやうにもらへ父さんがいつたと孫の言ふなり
ふとおもふおもひを通すと通さぬはどちらがどれだけ強いのだらう
春の野に五時を知らせる鐘が鳴りをちこち犬の遠吠え聞こゆ
産む力産ませる力生るるちから小さなちひさな赤子生れたり
小さき茶の木を覆ふばかりの草ひけば何やらがをり生なまとをり
生きゐる者は食はねばならず父のそば離れて夕べの厨にたちぬ
冷蔵庫にて日持ちのすると書き添へて子に送りたり莢隠元を
倒れて三日目命令口調の戻りきぬ天国は夫を拒みたるらし
摘花にて落としし枇杷のにほふかな枝に残れる花よりしるく
無花果の栽培やめむと夫が言ふ三十年を節目とぞして
わが愚痴をたつぷり含んだ土なれば今年の大根よく太りたり
この庭に来るは楽しみ 背の高き訪問看護士いひてくれたり
