樺沢ミワ「くうとくん」（2018年；青磁社）
こめんと
第１歌集。解説・帯：花山多佳子。秋田で育ち東京に住む作者。タイトルの「くうとくん」はくうが一人娘の連れ合いの、くんが孫の呼び名からきている。
付箋
玄関を入りて娘は弛みおり脱ぎしブーツは余力を残す
月山の「ひろっこ」という春告げ菜しゃきりと茹でん香り鋭く
験のよきブラウスなれば夏の日を友の見舞にまた着て行けり
観察日記をつけるごとくに見守りきし苦瓜１号食べごろとなりぬ
琉球の謡と舞を堪能し留袖われもカチャーシーに混じる
「凍れるすなぁ」一言に足る郷のあいさつを交わしつつ母は九十歳の春
新版の日本地図の索引に記されてあり町の名消えし日
ものなべてに冠れる雪はまろかりき、青かりき郷 夢に出でこよ
ホームに立つ友と似る人見ておりぬ欠伸をするは生きている人
路線の名の三度変われど鷹巣とう町の名のこるふるさとの駅
ホース抜け水浸しなる家の庭この頃うまくわたしを許す
泣きもせず傷を縫われてきたるとう男の子の額のふたつめの傷
駆け回る男の子となりてひさびさに十三キロを総身で抱く
思い出せぬ郷の日暮よ降りしきる雪にけじめなく夜となりしか
