川上まなみ「日々に木々ときどき風が吹いてきて」（2023年；現代短歌社）
こめんと
第1歌集。現代短歌社賞次席作を含む。栞・大森静佳・大松達知・黒瀬珂瀾。買った本。岐阜県で中学の教員をしている作者。傷ついたり励まされたりしながら一生懸命に生きている感じが伝わってきて好感を持った。ただちょっと気分に流されている歌が目についた。作者の好みではないかも知れないが第2歌集は年齢的にも、しっかりと踏ん張る歌も要所要所に配置されることを勝手に期待する。
付箋
あなたからはなれて暮らす晩春の机に置かれている裁ち鋏
つり革の長い方だけ揺れている あの時無理と言えばよかった
消しゴムを投げた生徒を見逃すか叱るか迷う三月の朝
教室の窓辺で雨を待つような顔して明日の予定を書く子
Wを四画で書く生徒来て部屋は一人のときより静か
日々に木々ときどき風が吹いてきてわがままな君が羨ましいよ
どこへやることもないまま握る手のなかに小さな怒りはあって
ありがとうを言えない子らを叱りつつ職員室のコピー機使う
コピー機が読み取って出す原稿のまるでひとつのため息のよう
「もう何もしたくないんだ」という生徒と日向ぼっこをする五時間目
