丸山順司「チイと鳴きたり」（2020年；ながらみ書房）
こめんと
第１歌集。栞・安田純生・大辻隆弘・河野美砂子。高校生で短歌を初めて半世紀以上というので歌歴は長く、既に自分のスタイルを持つ。日常を淡々と詠いそこからじわりと詩情をにじませる。こまごまと家事をしていて、勤め人の息子と暮らしているおじさんであること以外自分に関する情報は盛り込んでいないが、何となく読ませる歌集だった。
付箋
電球をとり替へ終へてしばらくを脚立の上より部屋見渡せり
寡黙なる男の貌に家を出て寡黙に帰る米買ひ持ちて
無言にて湯呑みをかざす客ありて店員黙つて茶を注ぎやりぬ
施設なる母は一度も「来てほしい」と我に言はざりき今にして思ふ
夕食は外でと言ひて出かけたる息子翌朝ぽそりと帰る
冬陽差す電車に座せばとろとろと雲のあはひに入りゆくこころ
梵天に耳くすぐられほわほわと庭の石楠花ながめてゐたり
こちらにも向かうの棚にもブロッコリー 値は同じかと確かめにゆく
