なみの亜子「鳴（メイ）」（2006年：砂子屋書房）
こめんと
大人の映画を見ているような歌集。濃いが適度に 抑えた、さびと凄みの効いたつくり。主人公の女性は孤独感を内に抱えつつもたくましくしたたかに生きている。
付箋
帰り路が一番さみしい窓際にGジャン斜めに吊るしておくよ
死ぬときもひとり 小型の掃除機の背筋を伸ばして立っている部屋
足りなさがとても似ている二人なり冬の桜の秘める血脈
車窓から見られ続けている家の窓という穴 扉という蓋
いつかふと居なくなること案じあい二人乗りする動物園まで
水揺れる音して 妊婦が歩みくるすれ違うときわたしは薄い
人を待つ動悸に似たる歩の運び時おり光がタクトを振りにき
岩陰のほのか蒸れいるひとところ天魚の赤き斑点を秘す
死ねるまで生きるのだろう低き陽を正確に追う猫のいる地を
山よりの風垂直に山を降り木々の根元を揺さぶりやまぬ
雨の日の傘はわたしを暗くして歩めばそこより草倒れゆく
遠目して眠れるひとを犬は見る濃霧おもたく窓閉ざす日を
