栗木京子「南の窓から」（2017年；ふらんす堂）
こめんと
第9歌集。ふらんす堂のホームページ上に1日1首1年間の短歌日記として掲載したもの。後書きに言葉書きと短歌のコラボレーションを楽しもうと気持ちを切り替えたとある。
付箋
1月2日 羽ひろげ半円形に飛ぶときに街のすずめは風を生みたり
2月11日 水中にヒヤシンスの根けぶりをり人を連れ去りゆく死はそこに
3月7日 助詞は「を」か「に」かと語らふ春の午後うたの岸辺にわれらつどいて
4月10日 葉桜の季節に黒の映えながら日傘は坂をのぼりてゆきぬ
5月16日 役所勤め二年でやめしわれは見つ蜜吸ふ蜂の至福と虚脱
6月10日 三宅坂に銀杏青葉のひかる午後書庫の闇から文字をよび出す
7月18日 紙めくるリズムにかそか遅速あり歌人つどひ選をする部屋
7月30日 歌ゆゑに不幸になるなと師は言へり疏水に沿ひて木々さやぐ道
8月12日 裕子さんは今ごろ歌塾をひらきゐむ海坂藩の寺子屋借りて
9月28日 漢文の日記書き継ぐ手をとめて定家も見しや秋の夜の月
10月10日 運動の基本は重心移動なりフラ踊る足もつれよろめき
11月27日 われの言ふ冗談またもスルーされ分刻みにて議事の進みぬ
12月28日 ハチ公の左の耳は垂れゐると子に教はりぬ雪の渋谷に
