尾崎加代子「水辺のエチュード」（2024年；青磁社）
こめんと
後書きでは第4歌集、帯には第3歌集とある。80歳を過ぎて歌集をまとめたという。塔入会60年という。海外旅行の歌も多く、エネルギッシュな作者像が見える。
付箋
裸木にあまたの朱き柿の実の車窓につづく智頭線をゆく
くろく鋭く飛び交ふつばめヒマラヤをのぞむ湖岸の草原の上
あたらしき夏をめざして庭畑の胡瓜は細き蔓のばし初む
潮のひく河口の小波やはらかに沖へ沖へと睡りにさそふ
バガン観光のバスの表示に残りゐる「米子駅経由境港行」
ひとしきりスコール過ぎて一連の作法のやうに虹がかかれり
なまいきなせりふにオレといふ六歳と手と手をつなぎ川まで歩く
学芸会、表彰式につきくれし母親代りの十違ひの姉
亡き姉の満中陰の会食の窓のかなたに片脚の虹
転倒の数は忘れて夫答ふ介護認定調査員の前
「ありがとう、おいしかった」と夫も娘も我に残せし最後の言葉
球を打つ主なき庭のゴルフネット胡瓜とゴーヤほしいまま伸びる
