山下れいこ「水たまりは夏」（2006年：青磁社）
こめんと
作者が副園長として勤めた病院内保育園の「くるみ保育園」がとても魅力的。うたはわかりやすく共感しやすい。読んで楽しい歌集。
付箋
目を合はせ子らをまつすぐ叱りたり演技も少し加へて叱る
雨の日はぐりとぐらのかすてらを鍋で焼きたり絵本のやうに
ぐづる子は左の胸に眠らせよう「ぞうさん」のうたゆつくり歌ひ
夜勤明けの二時間後には羽田にをり日帰り交渉普通となりぬ
灯をすべて点けても暗しホテルの部屋に次期園長の推薦文書く
透きとほる声に呼ばれて振り返るコスモス畑に黄の蝶のをり
三歳児相手にたたかふ雪合戦多勢に無勢、つひには本気
せんせいのいたいのいたいのとんでけと二歳の子どもがわが足撫づる
風の音話題にしつつ鍋囲む微妙な距離なり夫の弟妹
腰低く頭も低く暮し来てたうたうわたしは猫背になりぬ
「候補者夫人」もこれでおしまひ夫の名を楷書で記すわたしの一票
よき夢を見て眠りませ右大臣涼しき目許を和紙で覆ひぬ
溶接を詠まれし眼鏡のつるを見る 茂吉記念館は木漏れ日の中
ウォーキングも頭を低くして行かむこの町は夫の選挙区である
喫茶店で本を読むのがお気に入り禁煙席の隅つこがいい
「明日は？」と聞けば会議の予定言ふ ではなくご飯いる？いらない？
