花山多佳子「木香薔薇」（2006年；砂子屋書房）
こめんと
表紙を開けるといきなり花山多佳子の世界が始まる。いままでとはちょっと構成が 違ってきたかも。ふしぎな家族は健在のようだ。花山多佳子の歌は、スレスレのところにある。 もう一歩行ってしまえばただの変な人になってしまうが、何とも不思議な世界を 覗かせる。また、言葉も荒っぽいものを平気で使う。しかし、ちっとも下品にならず独特の味を 出している。 この絶妙の寸止めも魅力的である。
付箋
湿りたるバスタオル廊下に落ちてゐて息子は夜のどこにも居らず
大根を探しにゆけば大根は夜の電柱に立てかけてあり
机の上の乱雑すこし押しのけて額を置きて夢を置きたり
あきらかに重みをかけて乗つてゐる欅の冬の枝に雀が
母をらぬ家に居て何も思はざれど帰りきてぼんやり母を思へる
なぜかみな青柿のまま落ちてゆく 母亡き家のこの柿の木は
性といふ言葉をキャラに置きかへて暗きひびきの払拭さるる
ぶりぶりと弾んで兎は檻を出づ蛍光灯のひかりの下に
消えかかるときにぶつくさ言ふゆゑに灯油ストーヴの旧きを愛す
