村上和子「ものはら」（1998年：砂子屋書房）
こめんと
端正なつくりの中に人間味ものぞかせる、落ち着いた歌。「ものはら」とは陶芸家が出来栄えの気に入らない陶器を捨てる原っぱ。
付箋
時速百キロの風を分けゆくヘルメットの内に澄みつつ鼓膜は締まる
風落ちしものはらに白き腹をみせ陶片を抱く細きくちなわ
地下鉄の窓に映りて目が合いし隣の女にのどぼとけ見ゆ
人が消え家が消え樹が消えし跡に片寄せられたる植木鉢五つ
舗装路に落とされし花の踏まるるまで電話ボックスの中に見ていつ
シャープペンの芯折れしほどの失望をおぼえてカフェの席を立ちくる
帰り来し部屋に残れる陽のにおい灯さぬままにイヤリング外す
君はいまだ信ずることの多くして草ひかる野に吾をふりかえる
